【西洋絵画】カラヴァッジオ-バロック様式の先駆者は殺人犯
本日はカラヴァッジオと彼の代表的な絵の紹介です。
カラヴァッジオ(1571年~1610年)はイタリアの画家で、バロック様式の先駆けの画家と言われています。
バロック様式とは主に17世紀に流行した画風で、劇的な明暗や肉体を豊満に描くことが特徴です。カラヴァッジオの他にはルーベンス、レンブラントやベラスケスが有名ですが、彼らはカラヴァッジオの影響を受けたとも言われています。
カラヴァッジオは早熟で無頼な画家です。20代前半から才能を発揮し、ローマで人気画家となります。
しかし、稼いだお金をお酒や賭博につぎ込み、喧嘩も絶えなかったそうです。しまいには、35歳の時に喧嘩相手を殺してしまい、指名手配の身となった彼はイタリア各地を放浪します。
そして、38歳という若さでマラリアにより亡くなります。
短い人生の中にも、数多くの世界的な傑作を残しています。
早速、見ていきましょう。
「バッカス」
カラヴァッジオが25歳頃に描いた作品です。バッカスとはギリシャ神話における酒の神様で、ギリシャ語でディオニュソスという名前でも呼ばれます。この作品は、カラヴァッジオの初期の代表作とも呼ばれます。
見所は、少年に見立てて描いたバッカスの官能的な表情です。赤い頬と色気のある厚い唇、潤んだ瞳は快楽を誘っているようにも見えます。
一方で、グラスを持つバッカスの手は汚れています。これは快楽の代償を暗示しています。
お酒を飲んで気分は高揚するものの、二日酔いで苦しんだり、ときには死亡してしまう「お酒」の本質を表していると言えるでしょう。
酒に溺れたカラヴァッジオだからこそ描けた作品と言えるのではないでしょうか。
また、果物は食べごろの物もあれば、虫食いや傷物もあります。これは「生けるものは死ぬ」という、人生の儚さを表していると考えられています。
「果物籠」
こちらも、「バッカス」とほぼ同年代に描かれた絵画です。特筆すべき点として、イタリアで初めての静物画だということです。
当時の絵画にはヒエラルキーがあり、トップは宗教画、最下層が静物画でした。
しかしカラヴァッジオはヒエラルキーを気にせず、絵画を同質に捉えて描きたいものを描いていきます。「マリアを描いた絵も、花を描いた絵も同じ技術が必要だと思う」と彼は言ったとされています。
こちらの果物も虫食いのものがあり、儚さを表しています。
因みに、静物画に儚さの寓意を持たせたものを「ヴァニタス画」と言います。
「聖マタイの召命」
こちらは1600年に描かれた作品で、徹底した明暗表現から生じる劇的瞬間に、バロック様式の萌芽を見ることができます。
この作品の特徴は、イエスが収税人マタイを弟子に加えるという、聖なる場面を世俗画的に(日常の一場面のように)描いたことです。
右端で堂々と指を指している人物がイエスです。髭こそ生やしていますが(髭はイエスを描くときの象徴)、一般人のように描かれています。
従来まで、イエスを見る髭の男がマタイだと考えられていましたが、近年では左端のうずくまって金を触っている人物がマタイだと考えられています。
うずくまる男を髭の男が指している点(彼が「マタイです」と指しているように見える)や、イエスの目線の先がうずくまる男にあるように見える点が理由のようです。
トラブルが絶えず、殺人まで犯したカラヴァッジオですが、ガリレオ・ガリレイ、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロやティツィアーノ等と並んでイタリアのリラ紙幣にも選ばれるほど、イタリアでは功績が評価されています。(紙幣にすることに賛否両論はあったようですが。)
バロックの「光と闇」を自らの人生でも体現したカラヴァッジオは、その振れ幅の大きさから、唯一無二の画家と言えるでしょう。